雑誌ビジネスのこれから

以下は、6/20に「ちょっくら書店営業」というメールマガジンに掲載された原稿の転載です。
2003年からはじまった「INC総会」の事務局をやらせてもらっています。こちらのほうにも、ぜひご興味のあるかたはご参加ください。

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● 雑誌ビジネスのこれから
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雑誌は消費者によって、「メディア」だったり、「情報源」だったり、「かけがえのない愉しみ」だったり、「ひまつぶし」だったり、時と場合によってさまざまな顔をもつ。ただ、当然だが、常に「ビジネス」として成立していることが求められるので、バランスを崩した時は、休刊や廃刊といったことになる。
このバランスの対象として、
1.読者(販売収入)
2.広告主(広告収入)
3.ブランド価値(コンテンツ・イベントなど付帯的収入・活動)
という3つの要素があると考える。
またバランス以前の大前提として、「おもしろい」「役に立つ」という2つの要素が必要不可欠なものである。これが欠如するものは、早かれ遅かれ市場から消えていくことになる。書籍の場合、極論をすると、初版がすべて返品されたとしても(部数にもよるが)、すべて廃棄してしまえば、意外と傷は浅いものであるが、雑誌は「連続性」を必要とするので、最低3,4号は発行するため、非常にリスクの高いビジネスでもある。このことを念頭に置きながら、このバランスや課題について感じたことを述べさせていただきたい。

■読者(販売収入)
通常の雑誌は、ほぼ書店・CVSKIOSKルートのみで流通している。このルートをおさえるのはもちろんで、それ以外でいかに販売・流通させていくかが今後取り組んでいくべき課題であろう。
一つ目は、想定読者がいるポイントに先回りして、接触率を高めることが必要である。既存ルートのみの流通、当たり前の宣伝手法だけでは、もう認知してもらえない。先ごろ日販が発表した「ポイントCRM戦略」は他業種との提携を見据えているので、今後発展することを期待したい。もちろんメーカー側も独自で他業種へのはたらきかけ、接触から販売へとつながる仕組みを考える必要がある。
二つ目は、日本では地理的な要因から難しいが、定期購読者の拡大も非常に重要になってくる。いかに読者の属性を把握し、鮮度の高いリストを保持しているかということが、広告主へのアピールやブランド価値を高めることにつながるからである。
三つ目は、既存ルートにおける課題となるが、メーカーと卸の間の「取引の硬直化」ではなかろうか。新規参入の難しさ、取引条件の硬直化、創刊やムック口座開設の障壁の高さ、などが挙げられる。これらを一定のルールに基づいた公正なものにしていくことが、「産業」として成長させていくために必要なことなのではないかと考える。

■広告主(広告収入)
小生は、直接「広告業務」を経験したことがないので、一点だけ感じたことを述べさせていただきたい。
当然のことなのだが、広告主との関係をより深くしていくことにつきるのではないかと考える。代理店だけでなく、広告主とさまざまな角度から関係を密にしていくことによって、双方の利益が生まれるのではなかろうか。
出版社は雑誌を通じて、広告主と読者の接点を作り出している。その接点を、ページを見るという行為だけに終わらせず、いかに多くのアクションを起こさせるためのきっかけを創出するのか、そして広告主と読者との関係をさらに深めさせられるのか、を常に意識した行動が求められのではないかと考える。もちろん広告主だけでなく、編集・販売といった他部門とも連携し、自社資源の価値を高めていくべきである。

■ブランド価値(コンテンツ・イベントなど付帯的要素)
雑誌ビジネスの収入は、前述の2つによるものが圧倒的であることは、今後も大きく変わりはしないだろう。ただ雑誌の価値を常に極大化させることを考えながら行動していくことが重要になってくるのは間違いない。
1.コンテンツについて
連載コンテンツの書籍化、記事コンテンツの二次利用、電子化による収益化、海外へのコンテンツ発信・販売など、まだ取り組んでいる例は限られている。これらを親和性が高い、できる範囲のものからで構わないので、一つづつ積み上げていくことにより、雑誌の価値を高めていくことにつながるのではないだろうか。
2.イベントについて
華美なものでなくても、小規模なワークショップだったり、web上のキャンペーンなり、その雑誌がもつ強みをしっかりと伝えられることができるものであれば、どんどん知恵を絞って、仕掛けていくべきである。広告主からの協賛等があればベターかもしれないが、そもそもターゲットメディアである以上、自分たちの媒体規模に応じた読者の満足を得られるものを継続的にやることが、ブランド価値の向上につながることであろう。
ほかにも物販を行ったり、会員組織をつくったり、さまざまなことが考えられるが、媒体特性上もっとも適したものを、小規模で構わないので、トライ&エラーを繰り返しながら、最適な手法を模索していくことが、その雑誌の将来を左右することになるであろう。


以上、小生が今まで経験した中で感じたこと、そして今後していかなくてはならないと日々感じていることを述べさせていただいた。
雑誌に携わる方々が、今後を考える一助になれば幸いです。